それでは前回の続きです。

 

 

それからクリームと僕は、

バンコクにいる間は自然と一緒にいるようになりました。

 

「ホテルタカイ!ワタシノイエ、トマル?」

なんて言うものだから、

泊まっていたホテルもチェックアウトし、

彼女の家に厄介になることに。

 

クリームはあまり日本語が上手ではなかったので、

コミュニケーションで不便に感じることはありましたが、

笑顔を絶やさず常にニコニコしている彼女に、

僕はだんだんと惹かれていきました。

 

キスはしていたものの、

珍しく身体の関係はなかったので、

まあいいかと思っていたのですが、

どうやらそれが彼女は不満だったようです。

 

ある日、酔ったクリームが僕にこんなことを言いました。

 

 

「アナタ、トナリネル、ワタシ、ドキドキスル、

 ネレナイ、デモウレシイ、ワタシ、ヌレル、ビショビショ、

 ナンデ、テヲダサナイ、カンガエル、ワカラナイ・・・

 ハズカシイ!エヘヘヘヘ!」

 

 

なに言うとるねん。

 

ワタシ、ヌレル、ビショビショて言うてもうとるがな。

 

うーん。

 

抱いてほしいってことなんだろうけど、

なんかそういう気分になれないんだよなあ。

 

そうか。

この子、可愛いけれど友達みたいだからか。

 

一緒にいて楽だし好きは好きなんだけどなあ。

 

なんて思いながらその日もクリームと一緒に寝ましたが、

おそらく彼女はまた濡れていたのかもしれません。

 

 

その頃になると市場調査という名の毎晩の飲み会は、

長時間におよぶスタジオでの練習に変わり、

ようやくバンコクでの活動に本腰を入れ、

メンバー全員初の海外ライブに向けて燃えていました。

 

ライブ3日前、

その日は深夜までスタジオで練習していたので疲れてしまい、

スタジオから近かったので、

メンバーが泊まっているホテルに泊まることに。

 

ちょうどクリームから電話がかかってきて、

「今日は疲れたからホテル泊まるわ。」と言うと、

「ワタシモイキタイ!」と言う彼女。

 

「いや、それはちょっと無理やで。」と断っていると、

事情を察したメンバーの1人が、

「クリームちゃん来たがってんの?ええで。

おもろいし呼んであげーや。」

と心良く了承してくれました。

 

 

それからホテルに着き、

シャワーを浴びて晩酌をしているとタクシーでクリームが到着。

 

「ヨンデクレテ、アリガトウ!」

と、いつものようにニコニコして

部屋に入ってきた彼女でしたが、

ベッド脇にある台の上にあったある物を見て、

180度、態度が豹変したのです。

 

 

クリーム

「ナンデ!ナンデ、コンナモノガアル!」

 

 

それは箱に入ったコンドームでした。

 

しかも1個使ったあとの。

 

メンバーのやつ、部屋にどっかの女呼びやがったな。

 

 

「ああそれ、俺のとちゃうで。」

 

メンバー

「そうそう、俺が使ってん。

 女の子呼んじゃった(笑)」

 

クリーム

「ウソ!チゲガ、ツカッタ! 

 レンシュウ、アル、ウソ!

 オンナ、ヨブ、セックス、スル、

 ワタシ、サレナイ、ナンデ!?」

 

 

いやいやいやいや、

俺の方こそなんで?

 

練習の時間以外はクリームと一緒にいたやん。

 

そんなんする暇ないって。

 

 

クリーム

「サッキ、シタ!」

 

「だからさっきはバンドの練習やって。なあ?」

 

メンバー

「そうそう。嘘じゃないよ。」

 

クリーム

「ワタシ、シンジナイ!

 チゲハ、ウソツキ!

 ニホンジン、ミンナ、スケベ!

 アナタモ、スケベ!」

 

 

うーむ。

 

この子は日本人を一体どういう目で見ているのだろう。

 

とにかく、この盛大な誤解を解くために、

僕はメンバーと2人がかりでクリームを説得したのですが、

納得してもらえるまでにかなりの時間を要しました。

 

 

その時間、なんと2時間半。

 

もう練習以上に疲れました。

 

クリームは納得したあと、

安心したのかスヤスヤと眠りにつき。

 

せっかく泊めてくれたメンバーに対し、

僕は平謝りするしかなかったのですが、

こんなことになるんだったらちょっと遠いけど

クリームの家に帰っときゃ良かったと思ったのは、

言うまでもありません。

 

 

それからクリームは、

この一件でスイッチが入ってしまったのか、

ことあるごとに僕を疑うようになりました。

 

電話で誰かと話していると、

「ダレトハナス?ダレ?オンナ?」と

横から割り込んでくるし、

街中で女性店員に話しかけただけで、

「アナタ、アノコ、スケベナメデミテタ!」

と機嫌が悪くなるし、

もうどないせえっちゅうねん状態に。

 

 

そういえば、

現地で知り会った日本人のおっちゃんが言ってたな。

 

タイの女は嫉妬深いって。

 

そのおっちゃんはこんなこと言ってたっけ。

 

 

「お兄さん、こっちで彼女できた?

 気を付けた方がいいよ~。

 こっちの女はほんとにヤキモチ妬きだから。

 

 僕なんかね、この間友達と夜遅くまで飲み歩いててさ、

 いい気分で家に帰ってそのまま寝てたのよ。

 

 そしたらね、なんか背中に固い物があたるし、

 なんだろうと思って触ったら「イテッ!」ってなっちゃって。

 それ、なんだったと思う?

 

 包丁だよ、包丁。

 包丁がね、俺が寝てるベッドの上に3本置いてあったの。

 危うく怪我するとこだったよ~。」

 

 

そのときは、

「クリームは大丈夫やろ~。」と呑気に思っていたのですが、

嫉妬の感情を全面に押し出すようになった彼女を知ってから、

「俺も危ないかもしれない」と本気で思うようになりました。

 

それからも相変わらずクリームの嫉妬は凄かったですが、

普段はニコニコして優しい彼女だったので、

違和感を感じつつバンコクにいる間はクリームと一緒に過ごしていました。

 

 

そんなある日のこと。

 

大事件が起こりました。

 

なんと僕たちのバンドが解散するという事態に。

 

バンコクでのライブも無事に終わり、

その様子は向こうのTVにまで流れ、

タイのレコード会社数社が

僕たちに興味を示していたのにも関わらず、解散。

 

解散の理由は、よくある「方向性の違い」というやつです。

 

日本で活動するよりも旅費という面でお金がかかるし、

メンバー全員が同じ方向を向いていないと、成功はありえません。

 

苦渋の決断ではありましたが、

解散ということになりました。

 

それに伴い、

別れを告げておかないといけない人間がいる。

 

 

そう、クリームです。

 

バンコクに旅行以外の理由で

行くことがなくなってしまったので、

実質もう会えないということになってしまいます。

 

そう考えるとさすがに寂しく思いましたが、

言わなきゃいけない。

 

日本からクリームに電話をして、

嬉しそうに電話口に出た彼女に対し、

すごく心が痛みました。

 

 

クリーム

「モシモシ~。チゲサ~ン!」

 

「あのさ。

 話さないといけないことがある。

 えーと・・・。

 ごめん、もうタイには行けない。」

 

クリーム

「ナンデ?ドウシタノ?

 ワタシノコト、キライニナッタ?」

 

「違う、そういうのじゃなくてバンドが解散した。

 だから、もう会えない。

 今まで良くしてくれてほんまにありがとう。」

 

クリーム

「ワタシ、アナタノコト、マッテル、ズットマッテル!」

 

「待ってても、次はいつ会えるか分からんよ。

 だから、ほんまにごめん。」

 

クリーム

「アヤマラナイデ!

 

 ワタシ、ズットマッテル!

 ズット、マッテル、サカイ!」

 

 

ずっと待ってるさかい。

 

バンコクで生まれた女やさかい。

 

 

なんで関西弁やねん。

 

 

どこで覚えてきてん。

 

しんみりした会話だったのにも関わらず、

僕は思わず吹き出してしまいました。

 

もう会えないということを、

クリームはなんとか理解してくれましたが、

ヤキモチ妬きだっただけで、

いい子はいい子だったんだよなあと、

電話を切ったあとなんだか悲しくなってしまった僕。

 

ていうか、そもそもの話なんですが、

「俺ら、付き合ってないやん!」ということに、

このとき改めて気がつきました。

 




 

あれから10年。

 

当時のバンドのリーダーは現在バンコクに住んでいるので、

彼が日本に帰ってきたときはよく飲みに行くんですよ。

 

最近になって、

「あ、そういえば、クリームちゃんの写真あるで。

最近のやつ。仕入れてんけど見る?」

と言うので、見せてもらったら、

バキバキに整形して当時の面影がなくなったクリーム

そこに映っていました。

 

そういえばずっと鼻が低いのを気にしてたっけ。

 

たしかに元がいいから美人は美人やけども。

 

それにしてもやりすぎちゃうか。

 

 

「なんか・・・前の方が可愛かったな・・・。」

 

リーダー

「そやねん。やりすぎやねん・・・。」

 

 

今は普通に昼間の仕事をしているらしく、

元気そうで良かったなと思ったのですが、

なんでもやりすぎは良くないんだなと思った、

ある日の夜のことでした。

 

 

 

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